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【今月の症例】どうしても複視が矯正できずオクルーダーレンズを処方した47歳女性の例

オクルーダーレンズ記事のアイキャッチ画像

今回ご紹介するのは以下の症例です。

47歳女性。
他院で右上斜視の手術後にも複視が消失せず、プリズムが適応しないとのことで紹介受診。

複視によって生活に支障をきたすため、再度当院でもプリズム眼鏡をトライしたが日常的に変動があり、満足感が得られなかった。

最終的にオクルーダーレンズを使用し、現在複視のない生活を送っている。

本症例は、筆者が体験したものですが、個人情報の観点から実際の症例と一部改変しています。
ご理解の上で参考にしていただけると幸いです。

この記事でわかること

右上斜視の術後に複視が消失せず困っていた47歳女性の治療経過例

この記事を書いた人

  • 歴20年の視能訓練士
  • 小児の斜視弱視、GPが得意

詳しく見ていきましょう。

目次

主訴・現病歴

主訴

47歳女性
「右上斜視の手術をしたけれど、二重に見えて困っている。生活するのに不自由なのでどうにかしたい。」

現病歴

30代ごろから時々物が上下に二重に見えていた。

時々だったのであまり気にしていなかったが、最近二重に見える頻度が高くなり、他院で複視に対する斜視手術をした。
眼位は改善したが、手術前より複視が気になるようになり生活に不自由している。

全身疾患はない。

先輩視能訓練士

プリズムで複視が中和できないことが時々あります

どうしても中和しない時の対処法の一つとして参考にしてみて下さい

他院での手術前データは以下の通りです。

Far 15ΔR/LHT dip(+)
Near 12ΔR/LHT dip(+)

EOM R)下転制限あり
NPC 12cm

R)Ex 4° L)回旋なし

初診時所見

当院初診時のデータは以下の通りです。

■視力
RV=1.2(n.c)
LV=1.2(n.c)

■眼位・眼球運動
Far 5ΔR/LHT dip(+)
Near 4ΔR/LHPT tropia>phoria dip(+)

EOM R)やや下転制限あり
NPC 10cm

R)Ex2° L)回旋なし

■両眼視機能
Bagolini SG Test 遠近ともにR/Lの応答
TST all(-) R-supp(+)
Worth4灯 R-supp(+)

■対光反射
異常なし

■前眼部・眼底
異常なし

先輩視能訓練士

上下複視は水平複視よりも融像しにくいということを知っておいて下さい

特に回旋偏位による像の傾きを訴える場合には、プリズム眼鏡での矯正はできません

経過

眼位は改善しましたが、手術後にも複視が残った症例です。

手術によって像の幅が近くなり、日常的により気になるようになったとの訴えがありました。
また、一日の間にも自覚的に変動があるとのことです。

複視に対してプリズム眼鏡を合わせることになったのですが、2週間ごとの来院時検査において、訴え同様に偏位量に変動が見られていました。

■来院ごとの偏位量の変化
初回
Far 5ΔR/LHT dip(+)
Near 4ΔR/LHPT tropia>phoria dip(+)

2回目
Far 3ΔR/LHP dip(-)
Near 4ΔR/LHT dip(+)

3回目
Far 7ΔR/LHT dip(+)
Near 6ΔR/LHT dip(+)

一般的に、変動があるうちはプリズム眼鏡合わせを控えるのが無難です。
しかし今回は、患者さんの強い希望によりプリズム眼鏡を合わせてみることになりました。

以下が実際に行なったプリズム眼鏡合わせです。

■プリズム眼鏡合わせ
Far 5ΔR/LHT dip(+)
Near 4ΔR/LHPT tropia>phoria dip(+)
に対して合わせていきます

①R)2ΔBase downプリズム装用にて
Far 4ΔR/LHT dip(+)
Near 2ΔR/LHP dip(-)

近見はいいが遠見が二重に見える

②R)3ΔBase downプリズム装用に変えて
Far 3ΔR/LHPT tropia>phoria dip(±)
Near ほぼortho dip(-)

遠見がやや気になる

③R)4ΔBase downプリズム装用に変えて
Far 2ΔR/LHP dip(-)
Near ほぼortho dip(-)

この装用感ならいけそう

患者さんの自覚的に4Δがいいとのことで、以下の度数でプリズム組み込み眼鏡を作ってみることになりました。

■プリズム眼鏡処方
R)plane 4ΔBase down
L)plane

本症例の患者さんは右目がずれやすく、両目にプリズムを分けるよりも右目にまとめて入れた方が装用感がよかったため、右目にのみプリズムを入れています。

※同じプリズム度数でも感じ方は患者さんによって異なります

先輩視能訓練士

このプリズム眼鏡なら日常生活がかなり改善されそうですね

■プリズム眼鏡装用後の定期検診
しかし、一ヶ月後の定期検診の際、プリズム眼鏡で多少ましにはなったものの、やはり複視が気になるとのことでした。

検査時は4Δでまかなえそうな値ばかりでしたが、もしかしたらもう少し大きな値が日常的に出現していたのかもしれません。

結果(オクルーダーレンズを処方)

※イメージ

とにかく複視が気になって生活に支障をきたすとのことでしたので、オクルーダーレンズ*を提案しました。

*オクルーダーレンズ
すりガラス状になっており、相手側から薄く目は見えるが、患者側からは何も見えない遮蔽効果のあるレンズのこと

結果、オクルーダーレンズを装用することで患者さんのQOLは格段に上がり、今も装用し続けています。

先輩視能訓練士

患者さんの不快な症状が取れるとこちらまで嬉しくなりますよね

症例のポイント

本症例のポイントは以下の通りです。

  • 複視のあった上下斜視だが、術前より眼位は良くなっているものの術後にtropiaが残った
  • 結果的に複像間距離が近くなったことでより複視が気になるようになった
  • 来院ごとに偏位量に変動があったが、患者さんの強い希望でプリズム眼鏡を合わせた
  • 検査時に出た偏位量に対してはまかなえるであろうプリズム度数を組み込んだが、日内変動があるようで完全に満足することはできなかった
  • オクルーダーレンズを装用することで複視を消失させた結果、患者さんのQOLが上がった
先輩視能訓練士

経過を一つずつ確認していくと、そんなに難しくはないですね

今後の方針

今後の方針は以下の通りです。

  • 3カ月おきに受診し、眼位の変化を見ていく
  • 日常生活で時々オクルーダーレンズを外して生活してもらい(裸眼は良好)、複視がどのように変化するかを見てもらう
  • 眼位が安定してきたらプリズム組み込み眼鏡を再度トライする予定

まとめ

今回は、右上斜視の術後に眼位は改善したものの複視が残った症例についてご紹介しました。

一般的にphoriaに持ち込めそうな角度でも、患者さんによってはphoriaに持ち込めない方がいます。

また、複視の感じ方に日内変動がある方は少なくないので、それぞれの患者さんの訴えに合わせて対処法を提案していくことが大切です。

先輩視能訓練士

同じ疾患でも症状の現れ方、感じ方は人それぞれです

患者さんが最終的にどうしたいのかにしっかり耳を傾けて提案してあげて下さいね!

 

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