50代で初遠近両用眼鏡を処方する際のコツと8つのステップ
初めての遠近両用眼鏡を処方する時、どんな人にどのくらい加入を入れたらいいかよくわからない…
遠近両用眼鏡はとても便利ですが、
どうにも使う人を選びます。
患者さんから「初めて遠近両用を
使いたい」という希望があった場合は、
順序だてて説明し、扱い方を理解
できたかどうか、こちらで判断する
必要があります。
- 加入度数を入れる目安がわかる
- 初めて遠近眼鏡を使う方の処方の手順がわかる
※なお、当記事において「遠近両用」は累進タイプを指し、中近、近々と区別するために「遠近両用(または遠近)」と呼ぶこととします
初遠近両用処方はAdd+1.50D前後
あくまで一つの考え方としてご理解ください。
初めての加入度数はAdd+1.25D
あたりから始めることが多く、
本人の理解度・適応力に応じて
増減します。
本来、必要な加入度数は50代前半と
50代後半では異なります。
しかし初めての遠近両用となると、
明視域の確保よりも慣れやすさを優先する
ことが多いです。
Add+1.25D
- 遠近両用とはどんなものか試すのに最適
- ただし弱いのでもう一段加入度数を上げたいところ
- 慣れたらすぐに加入度数を上げないと遠近が使えないままになる
- これで無理そうなら遠近両用には向かない可能性あり
Add+1.50D
- 50代前半ならそれなりに遠近両用として役に立つ
- 50代半ば以降には弱い
- 遠⇔近の差が明確になり、累進レンズの構造が理解しやすい
- 歪みは出るが、今後遠近を使うにはこのハードルを超える必要があると伝える
Add+1.75D
- 50代前半は十分使える加入度数
- 第一選択するには、JB歴が長く、歪み耐性がある患者さん向け
- 50代半ば以降では、慣れたらすぐに加入度数を上げるよう伝える
Add+1.00D程度ではあまりに弱すぎるので、Add+1.50D前後を目安にしましょう
初遠近両用を処方する際の8つのステップ
患者さんによって、検査者によって
やり方はさまざまです。あくまで
一例として参考にしてください。
処方の8つのステップ
Add+1.25~+1.75Dまでの遠近両用のテストレンズを入れた状態でスタート
以下のようにあごの上げ下げしてもらい、見え方の変化を自覚してもらう
- いつもの癖であごを引いて手元を見てもらう
- 鼻メガネで見てもらう
対象物の方を顔ごと動かして見る必要があると説明し、実際に見てもらう
- 運転時に後方確認する時は顔ごと動かす必要があると伝える
ふらつきに注意してもらう
- 階段の下りや駅のホームなど足元を見るときに注意するよう伝える
ふらつきに注意してもらう
- 外出時、歩くときに注意するよう伝える
ずり落ちると見え方が変わるため、フィッティングが悪いようなら検眼枠をテープで額に留める
- レンズ外れたら自分で戻さないよう伝える
- 遠くだけ・近くだけ見るのではなく両方見るようにしてもらう
- 可能であれば院内を歩き回る
- 階段があれば上り下りしてもらう
あらかじめ「〇分装用テストをします」と伝えておく
装用テストの時間は本人の理解力・適応力と院内の混雑具合で決めて良い
- 扱い方の理解ができているか、慣れられそうか確認する
- 忙しい場合は患者さんから声をかけてもらうよう伝える
必要であればもう一段加入度数を強くして試す
1段UPで大丈夫ならそれ以上は上げずに処方する
- 何はともあれ初遠近なのでまずは使ってみないとわからない
- 「くらくらする…」となったらもう一段弱くして試す
- 弱くした場合、慣れたらすぐに加入度数UPをすすめる
提携している眼鏡店がない場合、適切な眼鏡店の選び方を説明する
結論として格安店以外が良い
- 遠近両用はレンズの加工やフィッティングに技術が必要だから
- こまめなフィッティングに耐えうる質のいいフレームが望ましいから
- 格安店は上記に該当しないことも多いため、おすすめしない
メガネフレームは縦幅が30㎜以上ある、広いものを選んでください。
狭すぎると近用部分がカットされてしまいます!
【屈折/JB別】初遠近両用の向き不向き
近視眼でJB歴がある人ほど慣れやすく、
近視・遠視ともJB歴がない人ほど
慣れにくいと言えます。
近視 遠用JB歴あり
遠近両用を扱えない可能性 | 小 |
理由 | 眼鏡をかけることそのものに慣れている レンズの歪みの理解がある |
対策 | 加入度数を変えずに、遠用度数を弱めて近見視力を確保する方法もある |
ポイント | 比較的スムーズに遠近の処方ができることが多い |
近視 眼鏡使用歴なし
遠近両用を扱えない可能性 | 中 |
理由 | 眼鏡をかけることに慣れていない レンズの歪みに慣れていない 遠用部が凹レンズ、近用部が凸レンズになる可能性があり、さらに慣れにくい |
対策 | 加入度数を変えずに遠用度数を弱める方法もある 遠近ではなく単焦点から慣れてもらうこともある |
ポイント | 本人の強い意志がないと継続しにくい 裸眼で遠くも近くもそこそこ見えるため、作っても使わない可能性がある |
遠視 老眼鏡のみ使用
遠近両用を扱えない可能性 | 中~小 |
理由 | 遠見時に眼鏡を使うことに慣れていない |
対策 | 遠視度数を弱めて歪みを減らす(ただし近見視力は落ちる) |
ポイント | 作ったものの使わず、老眼鏡に戻ってしまうこともある 遠視の程度によっては「今後、遠視用眼鏡が必要になるかもしれない」と忠告しておく |
遠視 老眼鏡使用なし
遠近両用を扱えない可能性 | 大 |
理由 | ときどき既製の老眼鏡を使う程度 眼鏡を使うことに慣れていない よく知らず人づてに「遠近がいいらしい」と聞いただけ |
対策 | 遠見視力が落ちても遠視度数は可能な限り下げて歪みを減らす (遠用度数を下げても裸眼よりは眼鏡視力が上がる可能性) なるべく弱い加入からスタート |
ポイント | 本人の強い意志がないと厳しい 老眼鏡も使っていないので弱い加入の遠近でも「見やすくなった」と反応がある まずは老眼鏡をすすめた方がいいかもしれない |
遠視で老眼鏡の使用経験が浅い人は、遠近両用のハードルがかなり高いので、早い段階で向き不向きを判断し、処方に時間をかけすぎない方がいいでしょう
初めての遠近眼鏡処方時に伝えるべき注意点
- フィッティングが命
- 慣れたら加入度数を上げる
- 慣れるまで1か月はかかる
遠近両用はちょっとのズレで見え方が
まったく変わります。
必ず定期的なフィッティングをして
もらうよう伝えてください。
また、加入度数を上げないままでいる
と、60歳を超えてもAdd+1.25D程度の
遠近両用を使っていることになり、
本人も「遠近だったことを忘れてしまう」
くらい遠近としては役に立たない
眼鏡になってしまいます。
遠近は慣れるまでは2週間~1か月は
かかります。慣れにくいとき、慣れて
度数を上げたいときは、眼鏡店の保証
を使ってレンズ交換をしましょう。
保証期間や保証内容は各眼鏡店によって異なります。
患者さん本人の努力も必要となるため、
仕上がってすぐに「慣れない」と
言われても、慌てなくて大丈夫です。
慌てて再処方しても、原因の本質
がわからなければ、再処方しても
失敗する可能性があります。
度数やフィッティングに問題が
ないようなら少なくとも1か月は
使うよう伝えて下さい。
まとめ
遠近両用は慣れればとても便利ですが、
少しクセのあるレンズです。
興味のある患者さんがいたら「少し
でも若いうちに」始めることを案内
して下さい。
「この人は無理そうだな」と思ったら
無理に処方するのではなく、理由を
説明し、単焦点へ切り替える判断も
必要です。