心因性視力障害の眼鏡処方【処方手順や保護者への説明】
心因性視力障害の小児において、
- 眼鏡願望がある
- Planeレンズに反応する
などといった場合は眼鏡処方を
行ないます。
いわゆる「度なしのレンズ」や
それに近い度数での処方になるため、
視力検査はもちろん、本人への配慮や
保護者への説明など、通常の眼鏡処方
とは注意点が異なります。
今回は、心因性視力障害の小児に
対する眼鏡処方において、具体的な
処方手順や実際の処方例も交えながら
詳しく説明していきます。
※本記事内での「心因性」とは器質的疾患が除外されており、医師から心因性視力障害と診断されていることを前提としています。
心因性視力障害の眼鏡処方の手順とポイント
まずは、心因性視力障害における
眼鏡処方の手順とポイントを解説
します。
視力検査
心因性視力検査における視力検査
では、以下のようなトリック法を
用いて視力が向上するかどうかの
反応を見ます。
- 雲霧法
- レンズ打ち消し法
- Planeレンズ
また、検査中の声かけもトリック法の
手技と同じくらい重要です。
小児に「このレンズがあるとよく
見えるかも…」と思い込ませるために、
検査者は「演者」になる必要がある
のです。
黙々と検査を進めるのではなく、
積極的に明るく声かけを行ったり、
小児とコミュニケーションをとったり
して下さい。
トリック法を用いた視力検査の具体例
① 他覚的屈折値よりもプラス寄りのレンズを入れて、雲霧状態にする
② 積極的に声かけを行いつつ、−0.25D、あるいは−0.50Dのレンズを重ねていく
③ 装用レンズの合計が±0Dになったときの視力を確認する
※レンズを何度も組み替えたり、検眼枠に何枚もレンズを重ねることに対して反応する小児もいる
④ レンズの合計が±0D、あるいはレンズなしの状態でPlaneレンズを重ねて反応を見る
⑤ 他覚的屈折検査で近視の傾向が見られる場合は、弱い度数のマイナスレンズで視力が向上するかどうかも試してみる
心因性疑いの視力検査では「傷つけない嘘」や「思い込ませる演技力」がとても重要です
眼鏡処方度数決定
基本的に心因性視力障害の眼鏡処方は、
以下のような症例に対して行ないます。
- 本人に眼鏡願望があり、視力低下の訴えがある
- トリック法に反応して視力が向上する
- 眼鏡装用で本人のストレスが軽減される可能性がある
- 上記を踏まえて家族の了承を得られている
Planeレンズ、あるいは弱い度数の
マイナス/プラスレンズなど、視力が
向上した度数のレンズを検眼枠に
入れて、本人の自覚を確認して下さい。
この時も、小児に「このレンズがあった方が良く見える!」と思い込ませるような声かけや言葉選びがとても大切です
- 「(検眼枠に)さっき〇〇ちゃんが一番よく見えた度数が入ってるよ!」
- 「よく見えるレンズを入れたんだけど、どう!?はっきり見えるよね?(*^_^*)」
※「○○ちゃんが一番よく見えた度数」が真実でなくてもOKです
装用テスト
「レンズがあった方がよく見える」
という自覚が得られたら、装用テスト
を行います。
装用テストで説明する内容は、通常の
眼鏡処方と同じで問題ありません。
(むしろ同じ方がいいでしょう)
本人に対して、
- 「この度数で大丈夫かどうか、しばらく試してみてね」
- 「頭が痛いとかクラクラしないかどうか教えてね」
- 「歩いたり、遠くを見たりしてみてね」
などと説明し、装用テスト中の様子や
保護者との関わり方などを観察して
下さい。
保護者が「見やすくなった?」などと
聞き、本人がうなずいている様子が
あれば、眼鏡処方は成功の可能性が
高いでしょう。
実際の処方例
Planeレンズで視力が向上する症例
9歳女児 | |
レフ値 | R +0.00D L -0.25D |
完全矯正値 | R 0.3(1.2✕Plane) L 0.2(1.2✕Plane) ※Planeレンズのみ使用 |
眼鏡処方度数 | R Plane L Plane |
近見視力・TST (裸眼) | 不良 (眼位異常は認められず) |
近見視力・TST (完全矯正) | 近見視力向上 TST「all pass」 |
経緯
- 他覚的屈折検査により、ほぼ正視(±0D)が判明
- 本人「レンズがあった方が遠くまでよく見える」
- 視力検査にてPlaneレンズに対する反応が良く、両眼視機能も向上が見られた
- また本人の自覚的な見え方も良くなるため眼鏡処方となった
Planeレンズのみの使用で視力が上がってくれるのは、比較的簡単な症例ですね
弱い近視のレンズで視力が向上する症例
10歳男児 | |
レフ値 | R −0.50D L −0.50D |
完全矯正値 | R 0.1(1.2✕−0.25D) L 0.3(1.2✕−0.25D ※打消し法にて |
眼鏡処方度数 | R (1.2✕−0.25D) L (1.2✕−0.25D) |
近見視力・TST (裸眼) | 近見視力 不良 TST 良好 |
近見視力・TST (完全矯正) | 近見視力 良好 TST 良好 |
経緯
- Planeレンズよりも、上記度数の方が本人の自覚が良い
- 装用テストにて、本人「よく見える」
- 近視の要素があったため、保護者に以下を説明して眼鏡処方へ
- まだごく軽度だが近視の要素もあるため、今後成長とともに近視が進む可能性がある
- その場合は近視の進行に合わせて、眼鏡の作り変えが必要
「心因性疑い+本当の近視」という症例もありますが、過矯正に気をつけつつ「どこまで視力が出るのかを探る」という本質は変わりません
保護者への説明
心因性視力障害の眼鏡処方では、
保護者への説明がとても大切です。
- 処方した眼鏡には度数が入っていない
- 視力が出づらい原因は心理的ストレスである
ということは絶対に本人の耳に入らないよう、保護者だけ別室に呼び出すなど十分に配慮する必要があります。
保護者には、以下のようなことを
説明しましょう。
- 眼の病気や異常などはないため安心してほしい
- 本人は嘘をついているわけではなく、本当に見えていない
- 視力が出ない原因は心理的ストレスにある可能性がある
- 心理的ストレスの原因ははっきりしない場合も多い
- 心当たりがあるなら日常生活で気にかけてあげてほしい
- ストレスがなくなるといずれ眼鏡がいらなくなるので無理にかけさせなくて良い
また、
ということを強調して下さい。
子どもの視力が出ないことに加え、
その原因が心理的ストレスかも
しれないという状況は、保護者に
とっても少なからずショックです。
悲観的になったり、不安を抱えたり
している場合も多いでしょう。
説明の際は保護者のそのような気持ちを受け止め、寄り添うことを意識して下さい
まとめ
心因性視力障害の小児に対する
眼鏡処方では、度なしのレンズで
あっても「よく見える度数が入っている」
と思い込ませることが大切です。
そのために積極的な声かけなどを行ない、
小児が楽しく、リラックスして検査を
受けられる雰囲気づくりを意識して
みて下さい。
また、保護者の不安に対する配慮も
忘れないようにしましょう。