近視の眼鏡処方「完全矯正/低矯正/過矯正」どれが正解?選び方の3つ目安
そもそも近視の眼鏡処方値って、完全矯正に対してどのくらい弱めたらいいのかな?
完全矯正値に対して眼鏡処方度数を
どう調整するか、慣れないうちは
戸惑うことも多いはずです。
「とりあえず完全矯正からちょっと
弱めている」という人もいるでしょう。
患者さんのニーズによっては、
低矯正や過矯正で処方すること
もあります。
ぴったりか強めか弱めか、どのような
場合にどの選択をするのか、ちょっと
した目安に活用して下さい。
眼鏡処方で完全矯正値、低矯正、過矯正のどれを選択すべきか目安がわかる
※原則として過矯正はNGです。
本記事は過矯正を推奨するものではなく、臨床で選択せざるを得ないケースを紹介しています。
完全矯正・弱め・強めを選ぶ例
完全矯正でいい例
- 完全矯正で問題ない(度を弱める理由がない)
- 完全矯正でないと視力が出ない
- 小児の眼鏡処方
完全矯正で問題ない
20代大学生 | |
主訴 | 度が進んだみたい 黒板が見づらい |
JB度数 | 0.7×-3.75D |
完全矯正値 | 1.2×-4.50D |
眼鏡処方値 | 1.2×-4.50D |
- JBはもともと弱めに作製したか
- 運転はするか
- どのくらい見えるようになりたいか(それなりorしっかり)
など聞き取ります。
眼鏡歴や年齢的にも適応力はありそう、
運転もあり「しっかり見たい」という
要望があるため、完全矯正でダメな理由
がなければ、完全矯正で処方しましょう。
完全矯正でないと視力が出ない
50代 | |
主訴 | 免許更新をしたい |
JB度数 | 0.5×-3.75D |
完全矯正値 | 0.7×-4.50D |
眼鏡処方値 | 0.7×-4.50D |
上記の例は完全矯正にしないと免許
更新をクリアする視力が出ません。
眼疾患の可能性も疑い、眼鏡処方
より治療を優先する可能性もあり
ます。
小児の眼鏡処方
7歳 | |
主訴 | 学校検診で引っかかった |
完全矯正値 | 1.2×-1.00D |
眼鏡処方値 | 1.2×-1.00D |
小児の眼鏡処方は完全矯正が基本です。
- 遠くから近くまでしっかり見えるのが本来の視力だから
- 完全矯正と近視の進行には因果関係がないという結果があるから
といった理由があります。
完全矯正は本来の見え方を脳に教えるというイメージですね
完全矯正より弱める例(低矯正)
- 弱めで十分な場合
- 眼鏡に慣れていない
- 強度近視でCLがメイン
- 老視が入ってきた人の近視眼鏡
- 保護者のきわめて強い希望
0.7~0.9程度で十分
必ず運転の有無、何を見たいかなどを
詳しく聞き、
結果的として「0.7〜0.9くらいで十分」
と判断したら弱めます。
無条件になんとなく度数を弱めるのではなく、自分が納得できる理由で弱めた方がいいです
眼鏡自体に慣れていない
眼鏡に慣れていないというのは、
眼鏡をたまにしかかけない、
初めて遠用眼鏡をかける(大人)、
眼鏡が嫌いという方が該当します。
強度近視でCLがメイン
-10.00Dを超える強度近視の方は
コンタクトレンズ(CL)をメインに
使っていることが多く、
完全矯正が-13.00Dに対して
眼鏡処方値が-11.00D
ということがあります。
ちなみに、低矯正眼鏡を使用している方は、自分が「老眼になっている」ことに気づかないケースもあります
老視が入ってきた方の近視眼鏡
老視が入ってくる世代(40歳前後)
で近業が多い方には、弱い加入の
遠近両用を始める前段階として、
近視眼鏡の度数を弱めて対処する
ことが多いです。
小児の眼鏡処方で保護者が強く希望
保護者の中には「低矯正の方が近視の進行を抑えられるのでは」と誤解をしている方がかなり多い印象です。
実際は、低矯正の方が近視が進行しやすくなるという結果が出ています!
小児の眼鏡処方では保護者の意向を
優先せざるを得ないものですが、
- 低矯正だからと言って近視抑制にはならないこと
- 近視が進むとすぐに使えない眼鏡になってしまうこと
なども必ず伝えて下さい。
完全矯正より強める例(過矯正)
- もともと過矯正のJBを使っていた
- 本人の強い希望
- 間欠性外斜視の治療
過矯正を良しとするかどうか、施設や個人の考えによって答えが変わります。
ここでは、本人の満足度を重視した例を挙げます。
どれか一つが正解なのではなく、「こういう例もある」という点で参考にして下さい。
①過矯正JBを使っていた
30代 | |
主訴 | 疲れる |
JB度数 | 1.5×-4.75D |
過矯正JBにした理由は? | 「過矯正かどうかわからない。 ただ遠くがよく見えるようにしてもらっただけ」 |
JBを作製した眼鏡店は? | 格安眼鏡店 |
過矯正JBになった原因の考察 | レフ値をそのまま処方したのではないか |
矯正値
1.2×-3.75D
1.5×-4.00D(本来ここでストップ)
1.5×-4.25D
装用テスト
1.2×-3.75D(見えづらい)
1.5×-4.00D(違和感ある)
1.5×-4.25D(ちょうどいい)
- 処方値 1.5×-4.25D
弱めた方が目が楽になるが、過矯正生活
に慣れている場合、1.5→1.2になっただけ
でも見づらい、ぼやけるといった印象に
なるのではないか。
まだ過矯正ではあるため、眼精疲労
について十分説明し、段階的に度数
を下げていく方が良いことも伝えた。
ここで本人に十分な説明がないと、他院や眼鏡店に「過矯正眼鏡を平気で処方している危険な眼科」と認識されてしまいます
②本人のきわめて強い希望
40代 | |
主訴 | JBが見づらくなってきたから強くしたい |
JB度数 | 1.2×-4.75D |
完全矯正 | 1.5×-5.00D |
眼鏡処方値 | 1.5×-5.25D |
過矯正にしたい理由 | 昔から強くしてもらっている 遠くがはっきり見えていないと嫌 |
結果 | 本人は満足している |
イレギュラーでも実際にあった症例。
年齢的にも限界が近づいてくるはず
なのでしつこいくらいに眼精疲労や
老視について忠告。
断固として過矯正眼鏡の処方を希望
されたため、本人の理解と同意を
得た上で過矯正で処方。
カルテに、
- 本人を説得した(がダメだった)
- 過矯正のデメリットについて説明した
以上についてを記載し、医師に報告します。
好ましくない度数の処方をした結果でも、本人が満足しているのであればいったん良しとするしかないこともあります
その後は受診のたびに主訴の変化がないか注意して下さい
③間欠性外斜視の治療
13歳 | |
主訴 | ときどきダブる |
JB度数 | 0.9×-1.50D |
完全矯正 | 1.5×-2.00D |
眼鏡処方 | 1.5×-2.50D |
眼位 | F 15ΔXp(T) N 15ΔXp(T)’ |
過矯正眼鏡処方後の眼位 | F 4ΔXp N 6ΔXp’ |
結果 | ダブりにくくなった 自覚的にも眼位を戻しやすくなった |
調節性輻輳を惹起させている例。
本人に複視の自覚があり、保護者に
自分の状況を伝えられる年齢でも
あります。
本人と保護者に、過矯正眼鏡の必要性
を説明し、理解と同意を得た上で処方
を行ないましょう。
近視の進行のたびに過矯正で処方
を続けることになります。
本人の自覚、保護者の理解を得ていると間欠性外斜視の過矯正眼鏡処方は比較的スムーズに行きます
小児の間欠性外斜視をプリズム眼鏡で矯正することもあります。
施設のやり方に合わせて下さい。
眼鏡処方値の決定に迷った時の3つの目安
処方の際の目安は次の通りです。
- 基準を決めておく
- 経緯を説明できるか
- 目的を達成できるか
一つ基準を決めておく
自分の中で一つ基準を決めておくと、
眼鏡合わせがしやすくなります。
例えば、
これといった目的がない遠用眼鏡の度数を提案する時は、免許更新(0.7)を基準にする
といったことです。
「それなりに見えればいい」
「そんなに強くなくていい」
という時に、
と提案し装用テストに入ります。
患者さんが免許を持っていなくても、
こちら主導で基準を示してあげると、
本人も検査側も度数を決定しやすく
なります。
その度数の経緯を説明できるか
なぜその度数で決定したのか。
たとえ決定した度数が合理的でなくても、経緯が説明できれば十分です。
- どういう状況で
- どういう要求があり
- どう対処して
- どう決定したか
をカルテに残し、
こういう理由でこの度数になった
と説明できる結果であればひとまず
良いはずです。
特に、
- 何度も度数を変えて装用テストをした
- 患者さんからの細かい要求がいくつもあった
など、少し複雑な経緯やイレギュラーな
やり方で決定した場合は、できるだけ
カルテに状況を記載しておきます。
その場では覚えていても、後で処方値を
見返して「なんでこんな度数にしたん
だっけ?」と戸惑うことのないように
して下さい。
医師や眼鏡店からの問い合わせが来た際にも答えられるようにしましょう
その度数で目的が達成できるか
どんな度数であっても、
最低限その眼鏡で患者さんのニーズを満たせるか
は意識して下さい。
- 運転免許を取得(更新)したい
- 警察官の採用試験に受かりたい
- テレビが見えればいい
といった目的を達成できなければ
意味がありません。
例えば、
- 免許更新なら0.7~
(この視力値は絶対) - 映画を見るなら0.9前後~
(夜間の運転のイメージ。視力値はだいたいの予想) - テレビなら0.6~0.8程度
(距離にもよるが、だいたいこのくらいかなという予想)
のように、
目的を達成できるであろう
視力の範囲を予測してから、
慣れやすい数値まで調整して
いきます。
映画館の座席の場所、テレビとの距離、もともとの屈折度数などによって変わるため、上記の視力値は目安です
まとめ
眼鏡を処方するにあたり一番良くない
のは「特に理由もなくその度数にした」
ということです。
根拠がない眼鏡処方では、再処方になった
時に、適切な度数を選択しにくくなります。
完全矯正、過矯正、低矯正にはメリット、
デメリットがあるので、自分で根拠を
探しながら処方を進めて下さい。